監督達とジェラード
本書では、ジェラードと関わりのあった監督の感想が所々散りばめられている。
ジェラードを見出したジェラール・ウリエに関しては良いイメージを持っているし、ダルグリッシュに関しても同様だ。
ただ、マンチェスター・ユナイテッドのレジェンド監督ファーガソンに関してはあまりいい印象を持っていないようにも思えた。
しかし、読んでいく中で何かと印象に残ったのは、カペッロとベニテスとモウリーニョだ。
ジェラードにとってイングランド代表で共にしたカペッロとクラブで共に栄光を手にしたベニテスに関しては氷のように冷たいと表現しながらも、その手腕には尊敬を抱いていた。
確執があるような書き方なのだが、実際はそんな感じではなく、仕事人としての両者は好きだが、もっとクラブや代表や選手に親しみや持ってほしかったのだと思う。
そういう気持ち面でジェラードに今ひとつハマらなかったのだと思う。
モウリーニョに関しては相思相愛だったように思える。
モウリーニョはチェルシー、インテル、マドリーの監督に就任した際、事あるごとに、ジェラード獲得を熱望していたし、ジェラードもあと一歩の所でアンフィールドを離れるところまでいった。
また、ジェラードもアンフィールドにモウリーニョが来て欲しかったと語っている。
結局の所、ジェラードのリヴァプール愛で移籍は叶わなかったが、モウリーニョはジェラード引退に関して会見で
「チャンピオンを称える時がやってきた。スティーブン・ジェラードを称えるときだ。彼のような相手がいるからこそ、私は今のような監督になれた。私は自分の選手と、最高の敵から学ぶからだ。
~中略~
私は彼をチェルシーに呼び寄せようとした。インテルに呼び寄せようとした。レアル・マドリーに呼び寄せようとした。だが彼は最後まで私の強烈な敵だった。ジェラードを称えたい。スタンフォード・ブリッジが同じ感情でいることを期待したい。我々には彼のような敵が必要なのだと」
スティーブン・ジェラード自伝 君はひとりじゃない P452
と言っているのが名言で印象的だった。
他にも、モウリーニョのジェラードへのラブレターが粋で、ともかく、この監督の戦術やメディア対応、選手への敬意の払い方その全てにおいて素晴らしいと改めて思い知らされた。
ちなみにジェラードの中で一番イメージが悪いのはスチュアート・ピアースだと思う。
その理由はここでは書かない。
イスタンブールの奇跡とスリップ
ジェラードのキャリアの中で語り継がれるであろう、イスタンブールの奇跡とスリップ。
この2つの出来事に関しても書かれており、本書を読む限り、ジェラードがこのシーズンのCLで優勝し、ビッグイヤーを掲げた事の感想として、後半開始にフィナンと交代してディートマー・ハマンを投入して3-5-2のシステムにしたことがラファエル・ベニテスの一番の魔法だったと述べている。
このシステム変更によって、中盤で数で優位に立ち、あの試合で輝いていたカカを抑えられて、ジェラードにピルロの弱点を突かせた事が一番のターニングポイントだった述べている。
また、リーグ優勝を逃したチェルシー戦でのスリップに関してはただのスリップであり、それが重要な場面だったという不幸だけだと思う。
ただ、やはり年齢から来る疲労の回復の遅さとか疲れが取れないとかそういう面もあったと本書を読んで思った。
あのスリップ後、ジェラードは何を思い、どうしたのか?というのも書かれている。
「まぁーあれだけの失態をすればそうもしたくなるわな」
って行動をしたみたいで、そこにも何か親近感が湧いた。
その他
本書ではジェラードがクラブが獲得を狙っている選手(ウィリアンやトニ・クロース等々)にメールでアプローチしていたことや相性が悪いレフリーやアメリカ行きを決めた理由、第二のキャリアの模索や引退セレモニーでの事、選手同士で行ったドバイ旅行の事、将来有望な選手(トレント・アーノルド)などについて書かれている。
この本を読めば、日本でもプロの選手が子供達に対して「夢を持ちなさい」と言う意味がよく分かる。
ジェラードも幼少期、公園で当時のスター選手になった気でフットボールをしていたという。
現在のジェラードは、リヴァプールのU-18カテゴリーの監督に就任した後、2018年5月4日からスコットランドのレンジャーズFCの監督に就任している。
「名選手必ずしも名監督ならず」
という言葉があるが、筆者個人としては、リヴァプールのトップチームでの監督・スティーブン・ジェラードをいつか観たいと思っている。
それがいつなのかわからないし、そもそもなるのか分からないが、その時はもう一度アンフィールドに行き試合を観たい。
次はコーナーキックを蹴る彼ではなく、テクニカルエリアでタクトを振る彼を観ながら、もう一度アンフィールドのあの雰囲気を味わえれば良いなぁなんて思う。